原口実紅×木村よしお対談 第2回 「気づかない」を「気づく」に変える環境づくり
当事者が気づいていないケースもある複雑性PTSD。「気づける」環境づくりの必要性と周囲のサポートの重要性。PTSD、複雑性PTSDに悩む現場の声を届けるこの対話、本シリーズの第2回対談。
話し手:原口実紅(はらぐちみく)
トラウマ診療専門の心理カウンセリングオフィス リベレスタ 創業者
現在の活動: トラウマケア活動 caret(http://caret.strikingly.com)
話し手:木村よしお(参議院議員)
参議院議員。元厚生労働副大臣。年金、医療など社会保障のエキスパートとして、よりよく暮らせる社会のために活動を続けている。参議院厚生労働委員会委員、参議院行政監視委員会理事、参議院政府開発援助等に関する(ODA)特別委員会理事。
ナビゲーター・コーディネーター:浅見 直輝(最前線で活動し社会を変えていく青年)
生きづらさと向き合うトラウマ診療
■「気づかない」を「気づく」に変える環境づくり
浅見直輝:最初はですね、前回この原口さんがもって来てくださった、この特に子供時代のつらい体験というのが脳に対して影響を与えて、脳の形を変形させて、それによって様々な症状が出て来るというところをお話いただきました。今回ですね、二回目は、実はこれ共通点なんですけど、原口さんは臨床の立場でこういった生きづらさに向き合っています。で、一方で先生は、先生のキャッチコピーが…おっしゃっていただいてもいいですか。
木村よしお:どうぞ。
浅見直輝:あぁわかりました。私が…
木村よしお:私が言いましょうか。「生きづらさをほっとかない」
浅見直輝:まさに先生は「生きづらさをほっとかない」というところがあるので、なので二回目のテーマは「ほっとかない!」というところで二人がどうしても「ほっとけないこの生きづらさ」「この人の生きづらさ」みたいのをちょっと二人でぶつけあってもらえたらな、と思いますので。じゃあ早速…。
原口実紅:はい。ほっとけないポイント、とにかく私はですね、子供時代のつらい体験がある人は、まず、いまの生きづらさがあったら、誰かに、わかってる専門家に相談してほしいって言う風に思いますね。原因不明で皆さん苦しんでらっしゃるので。
浅見直輝:何に苦しいのかもわからない
原口実紅:そうです、そうです。
木村よしお:でも、わからない人は本当にわからないんじゃないかな。と僕は思うんですよ。じゃあそれをどうやって、過去のそういうのを引き出すかっていうのは、やっぱり誰かアドバイスしてあげないと。それでまた相談して話し合う中でないと、本人すら思い出すことができなくて「なんで?」ていうのが、そこがあるんじゃないかなと思うんですけど。
原口実紅:そうですね。なのでもう、やっぱり一番の特徴は対人関係に問題がでていることなんですね。集団に馴染めないとか、人が怖いとか、なぜか会社の中でうまくできないとか、孤立してしまうっていう問題があって、学生時代から繰り返しそのようなことに悩まされている人っていうのは、まずひとつ、「自分はこれなんじゃないか」と疑っていただければな、と。
浅見直輝:なるほど。でも気付いていない。それは原口さんの視点からするとそうやって対人関係とかいろんな場面で、苦しみを抱えている人を原口さんから見るとそこには子供時代のトラウマっていう、多分、ある原因があって、相談してくださいっておっしゃったのはその原因に対してアプローチできる人だったり場所が既にあるわけで、原口さんから見たら、原因と解決策が揃っているのにそこが繋がっていない、そこがほっとけないみたいなことなのかなぁ、と。
原口実紅:そうです。おっしゃる通り。原因と解決策を両方とも持ってる場所っていうのはいま日本のなかで極めて少ないんですね。なので、まずこの情報に触れる人っていうのがまだ少ないのと、で、気付いたからといって適切な相談機関を見つけるというのもまたハードルがあるんですね。このあたりはこれからどんどん整備していかなければいけない部分だっていうふうには感じています。「ほっとかない!」ってここで言ってもですね、その人達が実際じゃあどうやって調べるんだ、ていうとまだまだ情報が足りないですね。
浅見直輝:確かにそうですね。
木村よしお:よく気付きの問題ってあるけども、やっぱり僕は本人自体がね、そういうのを思い出さないっていうのと、まったく気付かないっていうのと両方あるんじゃないかなと思う。そこをどうやってうまく導いていくかっていうのはね、それは本当に重要な役目をね、担っていかなきゃならないけど。そういうのをなんかね、出すきっかけをね、ここはこれからの課題じゃないかなぁ。
浅見直輝:実はこの「ともすもと」の対談は定期的に行わせていただいているんですけども、前回の対談相手がですね、現役の産婦人科医兼起業家の方でして、その方は産婦人科医の現場である課題をずっと目撃して来たと。それが病児保育なんですけども、病児保育を預かる施設が、全国で数千カ所くらいあって、定員が200万人くらいいらっしゃるそうなんです、約。なんですけど、実際に利用されているのは35%くらいの65万人とかそれぐらいで。でも保護者さんはみんな利用したいんですよ、子供が病気になっちゃったときに、預かって欲しい施設が。なんですけど、なんでその問題が起きてるかというと、要因はひとつで、電話で一斉に予約をするのが当たり前になってるんですよ。朝一斉に電話で予約するんで、みんなが。
原口実紅:「チケットPIA状態なんですね」
浅見直輝:「みたいな感じですかね。で、特定の場所に電話が集中しちゃうので、電話が繋がらなくて、やっと繋がったと思ったらもう満員。なんですけど、子供の体調は変わりゆくものなので、キャンセル率も3〜7割くらいあって、結局、利用したい、子供が病気になったときに預かってほしいっていう親御さん側と、預かることができますよっていう施設がマッチングしていない。それを前回の園田さんと言う方はインターネットを通して、リアルタイムでどこの施設が空いているか。どこが自分の地域で予約できるのかがすぐわかるように、そこで機会を繋げていったと言うのをされてる方で…。なので、ここの原口さんがおっしゃっている課題ともすごく、構造的に近いのかな、ていう。求めてる方と、サポートができる方がいるから。
木村よしお:そういうことを考えると、なにかね、自然の中でやってる中からそういう問題点がクローズアップされるような仕組みっていうか…考えた方がいい。例えば、集団検診ていうのがあるじゃない、そんなような堅苦しいものじゃなくて、日常の中からやっぱりこれは、だったら相談した方がいいんじゃないか、とかね。なんかこう、そういうような仕組みをね、考えて、自分自身をチェックできるような、気楽にチェックできるようなそういう仕組みをね、考えられてそこから上手にこう入っていく、とかね。
浅見直輝:気楽に気付けるように
原口実紅:いいですね。チェックリストとかを作ってもいいかもしれない
■当事者だけでなく、周りも学ぶ必要性
木村よしお:あの、いま企業では、この間法律で、ストレスチェックていうのを入れたんですが、要するにこれは50人以上の事業所がストレスチェックって言ってね、一枚の紙の中に何項目かチェックするわけですよ。そして、(チェックの結果を受けて)あとは専門家に相談した方がいいよって、そういう仕組みを事業所でやったわけですよ。これは、子供達の話なんで、そのような仰々しいものよりももう少しなにか、スムースに入っていけるような、チェックの仕方…。そういうのを考えられたらいいんじゃないか?ちょうど、たまたま法律でさっき言ったようなストレスチェックってスタートしたばっかりなので、今度は子供達のストレスチェックっていうか、子供達の複雑性PTSDチェックを上手にやるような仕組みを考えるのもひとつの手かなと。そうするとそこで、うまく引っかかって来た場合にちゃんと導入できる…。
原口実紅:そうですね
浅見直輝:実際なにか、先行事例とかあったりするんですか?アメリカだったりとか…。日本だと例えば学校の中でも、僕は元々不登校とか引きこもりを1〜2年ぐらい経験していて、そういうテーマで活動してきたんですけどやっぱり学校の中でカウンセリングルームとかって、行くだけでネガティブというか…。行くところを見られたらダメ、みたいのがあるんです、生徒の中では。「お前なんでカウンセリングルーム行ってるの?お前問題あるの?」とかっていうのは平気で言われる。だからすごくこう、そこに行くこと自体にネガティブな偏見があるような気がして。一方で海外とかだと、例えば特に米軍兵士の精神サポートされてる方の知り合いとかがいらっしゃるんですけど、向こうだとそれがスタンダードというか、ダメなことっていうわけではない。誰にでも起こりうることだから、必要なことだよねっていう認識になっている。その認識の違いってすごく大きい気がするんですけど。なので先生がおっしゃっていた、もっと気軽に気付ける様にするサポートってあるのかな…。
木村よしお:だから、小学校の授業の中で、音楽の時間とか絵画の時間とかそういうその、詰め込み的なところじゃなくてもう少しゆったりとしたなかで、皆さんそういう授業を受ける中で、実際はうまく組み込まれていて、そういう人たちが上手くクローズアップできるような、またはチェックできるような仕組み考えられたらいいんじゃないかなと思うけどね。そうしたら、抵抗なく学校の中に入れていったら、そういう対象になる人達が発見できる、見つけ出すことができるんじゃないかな。それに対していろんなケアの…、とにかく対象になる人達が発見されないことにはさ。また本人が気付かないことには。まして、逆に言うとそういう人達は本当は叫びたいんだけど、叫べなくて困ってるんだから、うまくそういう人達があったら、上手にそういう人達を導入することができる。むしろ僕らの方から声をかけてやれるというか。自分達が自主的にくるって言うのが、恐らく来れない人達がそういう人になってると思うのでね。そこは考えられる、いろんな子供で考えてね。
原口実紅:そうですね。やっぱり当事者が子供さんですと、自分で声をあげることは非常にね、いま浅見さんがおっしゃったように難しいことなので、やっぱり周りにいる大人たちが、この存在、これがどういう影響を及ぼすのかっていうことと、こういう障害が存在するという知識自体を持ってなかったりするわけですね。なので、いまお話お伺いして思ったのは、やっぱり当事者たちを見つけ出すことも非常に重要なんですけども、当事者が子供である以上周りの教員であったりとか、あとは小児科医であったりとか、そういう人達がこの障害の存在をまずは勉強したりとか、存在を知ったりとか、そういうことをしていくのも非常に重要なんじゃないかな、といま気付きを…。
木村よしお:まずそこからだよね。そこから「え?」ていうのからスタートしているけど。
原口実紅:そうですね、知らないということが今圧倒的にやっぱりあるな、と思いましたし、当事者たち見つけ出したところで、じゃあそれを治療する人達が足りるのかっていう問題も一方でありますよね。なので、本人たちに気付いてもらうのもとっても大事で、そのための仕組みづくり、気軽にできるチェックとかっていうのもすごくいいですよね。で、プラスアルファで治療者の中にこういう視点があるかどうかっていうのも非常に大きいですね。例えば、精神科医の方なんかは鬱病かもしれません、とサラリーマンの方が来ますよね。それを診断するときも、その方によってですけど、こういう視点で、過去どういう子供時代を過ごして来たかっていう聴取をそもそもしてない場合もあるわけです。今出てる症状だけチェックすれば鬱病かどうかっていうのは診断できてしまいますから、その時点でじゃあ鬱のお薬飲んでやっていきましょうかっていうことになりますが、そもそもじゃあこの人、過去、子供時代どうだったのかという視点があれば、その当事者を治療者側が気付くことができるようになるような気がしますね。
■チェックシステムの必要性
木村よしお:そこでね、だから本人はそれを思い出せない場合がある。そういうのを上手に引き出す方法をなんかこう、ね。なかなか難しいかもしれないけど、そこは考えたら、ちょうどね、奥の方にしまっておいたものを探しだすような、そういうなんか、それこそチェックの仕方があれば…。さっき言ったストレスチェックのもう少し子供版的なものを、あるいはもっとやさしい版みたいのを作っていったほうが、ひとつ、なんていうかな…。これからこの複雑性PTSDの、まぁ言ってみれば治す方法の、より大きく前進するんじゃないかな。
原口実紅:そうですね。すごく素晴らしい視点で。やっぱりそのどうやったらわかるのかっていうのはとっても大事なんですね。だから、これから研究者たちはそこを見ていかなければいけないんですね。例えばこのテストをして、こういう結果が出たら怪しいぞ、とか。そういう指標を見つけ出すのも、前提となる基礎の研究がすごく必要なんですね。で、いま、圧倒的にその研究が不足していて、しかも先進国どこもあまり進んでいない。要はアメリカのベトナム戦争以降の研究データでしか蓄積もないですし、先進国はアメリカですけど、とはいえやっぱり熱心にそこに力をいれてやるっていうのはなかなかみんな、自分の中のタブー意識もありますから、自分の子供時代の苦しいこともありますし。
浅見直輝:まぁ言いたくない…。
原口実紅:そうですね、あんまり。で、ですね決して親を責めてはいけないわけですよ。なぜなら親がこの不適切な養育の当事者だったりするわけですから、そのあたりで本当に中立的な目線で、基礎的な研究をしっかりする場所っていうか、そのデータをしっかり一カ所に集めて、ばらばらに研究するんじゃなくて、そこに蓄積していくような場所、それによって複雑性PTSDの当事者がどうすればわかるのかっていうチェックリストを作ることも可能になってくるんですよね。
浅見直輝:そういう意味だと、この原口さんが持って来てくださった提案というか、複雑性PTSDにトラウマケアセンター。なので二本目は一旦ここで締めて、次にお二人が話していることをどう実現していくかというところで、臨床の現場と政治の現場がどう恊働できるのか。で、これもひとつのトピックで、次の三本目のお話をできればと思うので、ここで締めさせて頂きます。ありがとうございました。
次回は、まだまだ認知されていない複雑性PTSDをどうやって知ってもらうかについてさらに深掘りして語っています。