原口実紅×木村よしお対談 第1回 生きづらさと向き合うトラウマ診療

原口実紅×木村よしお対談 第1回 生きづらさと向き合うトラウマ診療

トラウマ診療を専門とする心理カウンセリングオフィス創業者が語るトラウマ診療の実情。PTSD、複雑性PTSDに悩む現場の声を届けるこの対話、本シリーズの第1回対談。

話し手:原口実紅(はらぐちみく)
トラウマ診療専門の心理カウンセリングオフィス リベレスタ 創業者
現在の活動: トラウマケア活動 caret(http://caret.strikingly.com

話し手:木村よしお(参議院議員)
参議院議員。元厚生労働副大臣。年金、医療など社会保障のエキスパートとして、よりよく暮らせる社会のために活動を続けている。参議院厚生労働委員会委員、参議院行政監視委員会理事、参議院政府開発援助等に関する(ODA)特別委員会理事。

ナビゲーター・コーディネーター:浅見 直輝(最前線で活動し社会を変えていく青年)

生きづらさと向き合うトラウマ診療

子供時代の辛い体験がトラウマの原因に

浅見直輝:現場の声を国政に届けていく、ともすもと、今日の対談相手はトラウマ診療を専門とする心理カウンセリングオフィス創業者の原口実紅さんと、お隣にいらっしゃるのが、社会保障30年、生きづらさをほおっておかない国会議員、木村よしお先生です

一同:どうぞよろしくお願いいたします

浅見直輝:今日はお二人のキャッチコピーと言いますか、共通項といたしまして、「生きづらさ」というのがあります。と。で、生きづらさに対して、先生は国会議員としていろんなテーマで現場と向き合い続けて、それを国政に反映させていく。一方で原口さんは、まさに、心の専門家として生きづらさに向き合って来た、というところで、まずは、原口さんが今日フリップを作って来てくださったのでこれで、生きづらさとどんな向き合い方をしてるのか、心についてをまずお話して頂いて、そこからいろんな話の展開に持っていけたらな、と思います。

原口実紅:わかりました。よろしくお願いします。民間のカウンセリングオフィスって、どんな人が来るのかと言いますと、もちろん病院に迷わず行ける人っていうのはまず来ませんよね。それから、あとは民間のカウンセリングオフィスですから、保険が利きませんので、料金もそれなりにします。そうすると、普通に働いてる方だったり、あるいはお子さんの問題で悩まれてて、お子さんにカウンセリングを通わせるっていう場合とか、そういうことが多いんですね。具体的に、どういう人が来るかというところなんですが、一見とっても普通っぽい人が多いです。

木村義雄:はい。

原口実紅:なんですけど、主訴と言ってですね、その方達の悩みの内容を聞いていくと、とっても生きづらさを感じている、と。ここに書いたのは一例なんですけど、とっても多いのは対人関係で、人に馴染めない、人が怖い、あとはいつも緊張していてリラックスできないとか、あとは自分に自信がない、生きる気力がない、とかですね。あとは勉強に集中できない、仕事に集中できない、やりたいことがわからない。それから、病院に行くほどじゃないんだけど、頭痛とか腰痛があって体調不良が辛い、とかですね、こういう悩みを持っています。見かけも普通っぽいですし、別にぼさぼさの髪の毛で風呂に入らずに来るような方ではなくて、身綺麗にしてらっしゃって、会社にも行ってらっしゃったり、学校にも行ってらっしゃったりするような一見普通の人、こういうことを聞いても、それって「大したことないんじゃないの」って思わず、こんな、誰でも感じることありますよね。きっと(木村)先生だって、緊張するときだってあるし、なにか、こう体調不良を感じることだってあるでしょうから、別に大したことないんじゃないの、って、ついつい思ってしまうんですね。けれど、この人達、自分でもそれをわかってて、自分は心が弱いんじゃないか、とか、根性がないんじゃないかとか、とっても自分を責めてる状態でいらっしゃいます。この人達、よーく聞いていくと、非常に生きづらいと言うことを痛切に感じてらっしゃることが多くて、今は一見普通に見える、平気に見える、軽そうに見えるんだけど、よくよく話を聞くと、すでに学校や会社にいくのがかなり困難になっていたり、休みがちになっていたり、あるいは休職中であったりする場合がとっても多いんですね。で、実はここに書いたような社会問題、いろいろありますね、不登校、失業、貧困、あとは精神疾患だったり自殺だったりっていう、こういう社会問題のすでに当事者であったり、もしくは一歩手前の予備軍であったりすることっていうのが、良く話を聞くと見えてくるんです。で、この人達、泣いてますけど、なんで生きづらいのかっていうと、もともと性格が暗いのか、気質が生まれつきちょっと精神的にやっぱり軟弱なのかな、みたいな。実はですね、意外な原因があることが科学的にわかってきたんです。この人達、なんでなんだろうっていう…。

原口実紅:子供時代に、つらい体験をしていることが、すごく多いんですよ。必ずカウンセリングでは、その方が生まれた時どうでしたか?とか、小さい頃どんな性格でしたか?とか、どういう性格のお父さん、お母さんでしたか、とかそういうことを詳しく詳しく聞いていくんですけれども、そうすると初めてわかってくるんですね。

木村義雄:子供時代っていうのは何歳から何歳まで?

原口実紅:生まれる前、妊娠中から18歳ぐらいまでですね、大体。

浅見直輝:妊娠中なぜ入るんですか?

原口実紅:妊娠中もですね、例えばお母さんがお酒を飲んじゃってたりとか、あとは妊娠中にお父さんと大げんかしちゃってずっと泣いてたとかっていうのがお腹の中の赤ちゃんに影響を与えることがあるので、そこをしっかり聞かないといけないですね。

浅見直輝:そうなんですね

原口実紅:そうなんです。大丈夫でしたか?妊娠中、夫婦仲とか。というとこまで聞いていって

木村義雄:なるほど

原口実紅:そうなんです。子供時代のつらい体験って、どういう影響を与える…。

木村義雄:まさにトラウマだよ

トラウマで脳が変形

原口実紅:そうなんです。まさにトラウマなんです。子供時代のトラウマっていうのが注目されるようになってきました。影響としてはですね…実は脳が変形します。

浅見直輝:トラウマによって?

原口実紅:そうなんです。子供時代に、つらい経験があるとストレスホルモンが大量にでますよね。で、子供の脳っていうのはすごく柔らかいんですよ。で、発達するのが結構遅い場所もあるんですね。早い場所もあるんですけど。トラウマを受けた年齢と、あとは内容によっても、どこの場所がどういうふうに変形するのかっていうことが、実は最近、科学的に明らかになってきました。

木村義雄:へー…。

原口実紅:ここで簡単に書いてあるのがですね、いわゆる身体的虐待、体罰とか、これだと前頭前野っていう部分が変形してしまって、たとえば理性が利かなくなってしまったりとかそういうことになってきます。で、聴覚野ていうのは今度は、ひどい言葉を聞いて虐待されたと言う場合に、この聴覚野ていうところが逆に肥大しちゃうんですね。そうするとひどい場合には難聴とか、そういう心因性のもの、難聴とかの原因になっているんじゃないかということが出てきたり、あと必ず扁桃体っていうところにダメージがいって、ここはとにかく恐怖を感じやすくなる場所なんです。だから、その人達がもう大丈夫な状態になっているのに、ずっと人が怖い、人が怖いて思ってしまうのは、この辺りのことが関係しているっていうことがわかってきました。これ本当に去年ぐらいにようやく出たデータなんです。

浅見直輝:ハーバードと福井大学の研究。

原口実紅:はい、そうなんです。こちらの本(※子どもの脳を傷つける親たち (NHK出版・友田明美 著))がですね、出てまして。これ、テレビでもちょっと紹介されたりしたんですけど、詳しい研究結果がここにまとめられていまして、こういったことがようやく明らかになってきて、一般の人にでも読めるような状態になってきている。時代がかなり変わっています。しかもですね、子供時代にトラウマがあると肺がんのリスクは長期的にみて3倍、心疾患のリスクも3倍、鬱病のリスクは4.5倍、自殺願望にいたっては12倍のリスクになるということもですね、これは結構昔のアメリカのデータなんですけど、もうすでに研究されているんですね。

浅見直輝:これは政治の中でもこういうデータっていうのはどれだけ活用されているのですか?

木村義雄:いや、この頃ねデータっていうと厚生省がいつも変なデータばっかり出して、まったく信用されなくなってしまっているのが現状でね。だからこういう形で出していって、もちろんですね、やっぱりそうは言ったって、ひとつのデータですから、十分活用するようにしていかないといけませんよね。ただ、役所が出すデータは往々にして自分たちの政策をひた推すための、都合のいいデータを出す場合があるので。まぁ、これは損得なしのデータでしょうからね、これは十分信頼できるんじゃないかと思いますけど。

浅見直輝:なるほど。

複雑性PTSDの登場

原口実紅:ありがとうございます。なのでですね、今、大人にこのまま育ってしまった人達の辛さっていうのがまさかここに原因があるとは昔だったら思わなかったんですね。データがなかったので。でもようやく最近はっきりして来たので、やっぱり子供時代に何かあるっていうのが注目に値するなっていう風になってきています。で、しかもですね、この、こういう苦痛が著しい場合の障害の名前として、「複雑性PTSD」というのが、これまた今年の6月にですね…。

浅見直輝:2018年

原口実紅:はい、2018年6月にWHOが正式に、まぁお医者さんが疾患名検索する時に使うICD-11(アイシーディイレブン)というものがあるんですけども、これに新たに登場しました。この複雑性PTSDというのはですね、いわゆるPTSDていうのは有名な言葉でして、ご存知かと思うですけれども、大きな災害とか事件とか、ショッキングな出来事に遭遇した時に苦痛を被ったら、PTSDという障害ですよ、という。日本でも、サリン事件だったり、神戸大震災だったりというところからしてすでに、PTSDという言葉は有名になってきたんですけれども。

浅見直輝:米軍とかそうですよね。

原口実紅:そうですね、一番根っこにあるのはベトナム戦争の兵士、帰還兵に自殺がとても多くて、それが原因がPTSDなんじゃないかというところから実は病名がついているんですが。

浅見直輝:その段階で脳が、大人であったとしてもトラウマがひどいと脳が変形してしまうということなんですね。

原口実紅:変形してしまう、障害を負ってしまうということで。今回はこの複雑性PTSDとPTSDの違いなんですけど、PTSDていうのはですね、さっきも言ったように、戦争とか事件とかっていう単発の出来事に対して出る、ストレス反応ですよね。複雑性PTSDていうのは、持続性で、逃げることが難しいようなストレスに繰り返し繰り返しさらされることによって障害になるという違いがあります。

浅見直輝:波のように何度も何度も…。

原口実紅:はい。まさに家庭環境だったりとか、育成環境だったりとかのストレス。虐待とかですね、不適切な養育をはじめとして、いじめだったりとか。

木村義雄:それは家庭内だけじゃなくて、学校とか、友達付き合いの中でも生じることなんでしょうね。

原口実紅:そうです。やっぱり深刻ないじめっていうのは脳にダメージを同じ様に与えますし、あとは地域の中での差別だったりとか、ありますよね。そういった心の傷であっても、家庭内で親から受けた虐待だけじゃなくても、強いストレスに繰り返しさらされることによって、脳がダメージを受ける。これはすべて複雑性PTSDという障害の名前が、障害として認められるようになりました。なのでですね、この複雑性PTSDていうのは今も子供達がリスクにさらされています。で、そのまま育った人達も自分が複雑性PTSDかどうかなんて知らずに苦しんでいます。これ、本当に知られてないんですね。だからさっき言った様に、クライアントさんが「私は根性がないから」とか「もともと精神的に弱いから」って思っている方たちの過去を聞いてみると、非常に壮絶な子供時代を経験していることが多いんですね。

木村義雄:すごい言葉だね、壮絶な子供時代…。

原口実紅:ええ、生き抜いて来ている方達です。ただ本人はそれが今に影響を与えるということを知らないんですね。なので「なんで自分はこんなに周りの人と違って、適応できないんだろう」と自分を責めることによって。より症状がひどくなっている状態でみなさんいらっしゃいます。

木村義雄:メモリーの中に残っちゃってるんだ。

日本にトラウマケアセンターを

原口実紅:そうなんですね。まるで本当にこの一生に影響をおよぼすリスクな訳です。これはですね、子供時代だけでなく、ずっとこのままで大人まで生きていかなくてはならないですから、まるで「現代の呪い」のような感じでですね、本人は気付いてないんですけど、この脳になっちゃってるということがあります。もうわかれば対策もできるし、呪いって言ったって現代の呪いですから治療もできるわけですね。私から今日、とくにこれが必要なんじゃないかと思って持って来たものがあります。

浅見直輝:提案みたいなものですね。

原口実紅:そうなんです。必要なのはですね、まず研究がまだまだ圧倒的に足りないです。もっともっと客観的や科学的なデータを集める必要があって、それをするための場所、それから普及啓発もとっても大事です。いま言ったように過去に原因があって、脳が変わってしまうと言うこと自体を知ることによって「自分を責めることをやめる」っていうのがすごく脳にいいんですね。なので、知っていただく。で、いま子育て中の方にも知っていただく、それから子供達のケアだったり治療だったりっていうのも、小児科医の方だったり、あとは看護士さんだったり心理カウンセラーだったりトラウマに特に専門的に特化したような方達が集まっている場所があれば、いいのではないかなというふう風に考えて、今日は来ました。アメリカではトラウマインフォームドケアセンターというのが2005年に、同じような研究機関といいますか、トラウマケアを専門に行う所が2005年に設立されているんですけれども、PTSDっていうとどうしても戦争のある国が陥りがちな症状なんじゃないかとか、あとは珍しい災害とか、事件があったときだけケアすればいいんじゃないかって思われがちなんですけれども、今回、この複雑性PTSDというリスクをわかってしまった以上、決して平和な時に関係ないのではなくて、今も、理不尽な目にあっている、傷ついている子供達というのがいるんだということがわかった以上、こういった取組みをしていくのは非常に重要なんじゃないかな、と思って、今日は持ってきました。私からは以上です。

浅見直輝:ありがとうございます。

木村義雄:これ、トラウマケアセンターは日本ではまだ設立されていないってことですよね。要するに対象となる人たちは大体そちらの予測数値ではどのくらいの人達が、こういうトラウマケアセンターが本来あったら、ぜひここへ相談してほしいとか、治療に来てほしいとかって対象はどのくらい居ると見ておられるんですかね?

原口実紅:実はですね、日本での研究はまだされていないんですが、アメリカでの研究では、逆境体験といって辛い体験に、親の虐待、不適切な養育、親が精神疾患だったりアルコール中毒だったり、いろんな項目にわけて、あなたはどれに当てはまりましたか?って言うのを1万7500人にデータを取ったことがあります。4つ以上該当した人が、12%以上いました。一概にアメリカのデータですから日本とは違うとはいえですね、実際災害とか戦争とか関係のない項目ですから、まぁアメリカが12%いってしかもそのデータは白人の高等教育を受けた人が70%以上のデータですから、日本であってもかなりの数にのぼるのではないか、という予測はできます。

木村義雄:大体、日本で10%ぐらい対象がいるっていうことね。

浅見直輝:1000万人くらいってことですね、ざっくり言えば。

原口実紅:はいそうです。

木村義雄:実は、私、障害者、福祉にずっと担当していて、よく言われているのは、先進国ではですね、いわゆる障害者という人達の範囲が、幅が広くて、大体人口の二割っていわれているんですよ。日本では障害者っていうと、知的障害、精神障害、身体障害、この3障害しかなくて、足してもせいぜい800万ちょっとしかないですよね。本来なら先進国2割っていうと実際には人口に掛けたら2500万人くらいいるとね。その中にはこのトラウマケアをしないといけない人たちが沢山いると思うんですよ。日本はそういう人達が除かれているんで、800何十万人しかいないようにみえるけど、これ以外に、こういうトラウマケアとか発達障害っていうのを入れていったら、やっぱりいま言った二割ぐらいの数字っていうのは信憑性をおびてきますから。そこがね、今の日本のある意味で、ちょっとね、他の国に比べては十分に研究とか対応が遅れているとこなんでしょうね。

原口実紅:ええ、おっしゃる通りですね。

浅見直輝:そろそろお時間が…。いま、そもそもの課題提起と、こういうものが必要なんじゃないかというお話をしていただいたので、次の所ではもうちょっとこう、なぜここに関心を持ったのか、というのもそうですし、国の中で木村先生が行っている政策だったり活動の中で、なにかコラボレーションできるものがあるかどうかっていうのもちょっと探求していきたいな、と思います。

一同:ありがとうございました。

日本におけるトラウマ診療と実情、さらにはPTSDから派生した複雑性PTSDの登場や、これからのトラウマ治療をどうすべきか語って頂きました。
次回は、トラウマの原因をどう見つけるかと今後の解決策について語って頂きました。