高校1年生のときから車椅子で生活するようになったみゅうさんの、発想の転換や、ものごとのとらえ方などを伺いました。そこには、“心のバリアフリー”に繋がるヒントもあるように思います。対談第3回目。

まわりとの関係性と最低ラインの線引き?

浅見 直輝:車椅子に乗るようになって、まわりの人との関係性が変わったと感じることってありますか?

葦原 海:私の場合は、自分からわざわざ言っていなかったので、成人式のときに初めて車椅子になったことを知る(地元の)人も多かったんです。事故にあった高校1年より後にできた友人たちは、今でも普通に仲が良いので、特に関係性が変わったとか、そういうことを感じるのはあまりないですね。

浅見 直輝:それは凄いことですね。

葦原 海:最初はやっぱり、昔の友達はどう思うだろうとか、いろいろ考えましたよ。でも、そのことで私から離れていくのなら、別にそれでもいいかなと思って。

木村 よしお:強いですね(笑)

浅見 直輝:それって、もしかしてB型の特徴が出ているのかな(笑)

葦原 海:でも、(ハンディキャップがあるとわかっていて)私を受け入れてくれる人だったら、そのまま仲良くしたいなと思います。あとは変な話、ナンパとか見た目とか、それだけで近寄ってくる人って、嫌でも線引きできますよね。心があるかないかじゃないけど(笑)。今でも街でナンパされることあるんですけど、車椅子だとわかっていて声をかけてきている時点で、最低ラインの線引きはできているのかな、とも思います(笑)

車椅子になったからこそ、見えてきたこと

葦原 海:あとは、車椅子になって初めて広がった視野もありました。さっき、移動が大変だと言いましたが、たとえば電車だと、車両とホームの隙間にボードを出してもらって乗るのですが、車椅子生活になるまでは、電車に乗るためにそんなことが必要だったなんて全然気づかなくて。自分が体験して、初めて知りました。

葦原 海:それが、例えば、混んでいる駅だと手配が遅くなったりするんですよ。私も2駅先に行くだけなのに、電車を3本も逃したことがあります。

浅見 直輝:駅員さんが来てくれないと乗れないですからね。

葦原 海:そうなんです。まず、乗る駅の駅員さんに、どこどこで降りますと伝えると、電話でその駅に、何分発の何両目の何号車に乗せますみたいな連絡をしてくれて、降りる駅の到着時間のホームで駅員さんが待っていてくれるんです。だから、そのやり取りが済まないと乗れない。

葦原 海:新宿とか渋谷とか、大きな駅のほうが駅員さんもたくさんいるから電話も繋がりやすい気がするけれど、その分お客さんもいっぱいいるので、繋がらないんですよ。だから電車3本とか逃しちゃうし、むしろ、小さい駅のほうが繋がることもある(笑)

葦原 海:この一連のやりとりの大変さはすごくわかるのですが、だからといって私は、それが苦痛だとか、面倒くさいとか、電車に乗るのはやめて車の免許を取ろうとか思わなくて。

葦原 海:なんだろう…例えばですね、そのボードを出してもらわないと私は電車に乗れないということは、私は絶対に乗り過ごさないんですよね。もし寝ていたとしても、必ず起こしてもらえる!(笑)

木村 よしお:それは、すごい発想の転換だね!(笑) ハート強いなぁ。

葦原 海:中学の頃、山手線の内回りとか外回りとか、どっちが近いかわからなくなっていたんですが、今は「はいこちらです、こちらです」って全部案内してもらえる。便利だなぁって(笑)

浅見 直輝:とらえ方の問題ですよね。

葦原 海:同じことでも、考え方によってはプラスにもマイナスにも受け取れます。それは、人の考え方だったり、生き方だったり。

浅見 直輝:素晴らしいですね! やっぱりハートが強い!!

心のバリアフリー

浅見 直輝:以前から比べると、それでも環境の整備はだいぶ進んでいる気がするのですが、そのあたりはどうなのでしょうか?

木村 よしお:以前よりは随分と、いろいろ対応できる社会になってきていると思います。昔はやっぱり、閉じ込められていた。今みたいに移動のときに手助けするシステムもないから、結局は、施設に閉じ込められていたわけだよね。

浅見 直輝:表にすら出ていない、と。

木村 よしお:だから、もっともっと、障がい者の人たちが高校や大学や大学院にも行けて、仕事にも就けて、旅行にも行けるような社会にしていきたいと思っています。今まで1泊旅行しかできなかったかもしれない、でも、もっともっと自由に広げていくためにシステムや設備を整えようという方向性の話です。

葦原 海:新しく作るものは、バリアフリーで考えるほうがいいですね。それも、健常者だけで考えると「バリアフリーもどき」になってしまうので、障がいのある人を入れて考えたほうが、きちんとバリアフリーなものが作れると思います。

葦原 海:あと、古い建造物や日本の歴史を大事にしている場所などは、私はそこまでバリアフリーにする必要はないと思っています。

浅見 直輝:どうしてですか?

葦原 海:新しいものをバリアフリーで考えるのは大切ですが、本当に歴史などを大事にしたいのであれば、環境ばっかりをバリアフリーにするのではなくて、例えば、訪れてきた人に対してどうやって対応するのかとか、そういうことを考えたほうがいいと思うんですよ。

木村 よしお:例えば、車椅子だったら、階段を誰かがサポートしてくれて登れれば、無理に作り替えなくてもいい、と?

葦原 海:そうです。もちろん、障がいの重度によっては行かれない場所も出てくると思いますが。私みたいにある程度動ける人だったら、歴史を留めているからこそ、だからこそ、日本のそういうところを見に行きたいと思っているので。

浅見 直輝:たしかに。それはそうですよね。

葦原 海:でも、それをどんどん壊していってしまったら意味がない気がしてしまって。だから、日本はなんというか、心のバリアフリーを、考え方そのものをもっとバリアフリーにしていってもいいんじゃないかと思います。

2人の紹介

話し手:葦原 海 (あしはら みゅう)
2014年、16歳の時の事故により車椅子ユーザーとなる。2016年秋、NHK番組内で行われたファッションショーをきっかけに、モデル・タレント活動が始まった。現在では、多数のファッションショーに出演の他、TV / ラジオ / グラビア / トークショー / 講演会 / MC など幅広く活躍中。2020年東京オリンピック・パラリンピック公式イメージ動画にも出演。歩けていた頃と、受傷後では視野が変わり、今ある障害者と健常者の壁、不必要な固定概念を、エンタメの力で壊そうと今に至る。

話し手:木村よしお(参議院議員)
参議院議員。元厚生労働副大臣。年金、医療など社会保障のエキスパートとして、よりよく暮らせる社会のために活動を続けている。参議院厚生労働委員会委員、参議院行政監視委員会理事、参議院政府開発援助等に関する(ODA)特別委員会理事。

ナビゲーター:浅見 直輝(最前線で活動し社会を変えていく青年)