障がい者の方たちが生活する上で、やはりお金のことは外せない課題です。雇用制度や障がい年金について聞きました。「東京に住みたい」というみゅうちゃんの話から、現在の住宅事情に関する問題もみえてきました。第5回。

障がい年金に関する認識の誤解

浅見 直輝:障がい者の方たちが働くということについてお伺いしたいのですが、木村先生はそれに関して、どんな活動をされているのでしょうか?

木村 よしお:私たちは、障害者施策に関する制度や予算をどうしていくかという、ルール作りみたいなことをしています。たとえば、企業に対して、障がい者雇用を何パーセントにしてもらうような働きかけなどですね。

葦原 海:もしそのパーセント通りに障がい者を採用していない企業は、逆に国にお金を払わないといけなくて、会社名もアップされてしまうんです。

浅見 直輝:それって、ブラックリストみたいな感じですか。

葦原 海:そうですね。ただ、そもそも障がい者の給料が低く設定されているという印象があります。もしかすると私たち障がい者は、障がい年金がもらえてるからいいじゃないか、と思われているのかもしれませんが、私からしたら、それは車椅子のメンテナンスなどの必要経費に充てたいですし、もし車に乗る人だったら改造費用などもかかります。それに、健常者よりも病院に行く回数も多いと思いますし、かかるときは多額のお金が必要になります。いくら保険に入っていても。

木村 よしお:年金といっても、大した金額じゃないんだよね。

葦原 海:そうなんですよ! それだけじゃ暮らせない。

浅見 直輝:どれくらいなんですか?

木村 よしお:だいたいね、2級が月額6万円、1級が8万円くらいかな。

葦原 海:それが2カ月に1回、まとめて支給されるんです。

木村 よしお:毎月支給すると、その分費用がかかるじゃないですか。だから2カ月に1回。。

葦原 海:障がい者年金だけで暮らしている人もいるんですよ。仕事先がなかったり、社会が自分を理解してくれてないとか、受け入れてくれないとか、その環境を経験するのが怖くて社会に出れなかったり。

木村 よしお:だからやっぱり、ちょっと水準が低すぎるんですよ。障がい者2級の6万円というのは、国民年金の水準なんです。

浅見 直輝:なるほど。

葦原 海:本当に見えないバリアがいっぱいありますね。いろんなところに。

木村 よしお:所得保証がね、まだ十分ではないんですよ。私は、障がい者のベーシックインカムをどうするかということが、最大の課題だと思っています。

移動時間がもったいないから東京に住みたい!

葦原 海:実は今、私が一番困っていることというか、やりたいのは、東京に住むことなんです。千葉に住んでいるのですが、一日中、千葉県内にいる日って年間に2日あるかないかで。お仕事もあるので、ほとんど毎日東京にいる感じです。

木村 よしお:ほんとに、ほとんどいないんだね(笑)

葦原 海:昔は一人暮らしをしたい、という思いが大きかったんですよ。でも、今はそれよりも、往復の移動時間がもったいなくて東京に住みたいんです。

浅見 直輝:どのくらいかかっているの?

葦原 海:往復で4時間くらいです。

木村 よしお:健常者だったら、どのくいらいかかるの?

葦原 海:健常者だったら…、それでも3時間ちょっとはかかると思います。

木村 よしお:それは、けっこう遠いね。

葦原 海:そうなんですよ。もし東京に住んでいたら、職場まで半分くらいの移動時間になるじゃないですか?そう考えると、本当にその時間がもったいないと考えるようになっていて。

葦原 海:ただ、東京の物件は高いし、何よりもバリアフリーの物件を探すのは大変そうなんですよね。車椅子だと、普通のアパートに住むのが難しいから。家の中の廊下が狭いとか、トイレ入るのに90度曲がるのは無理なんですよ。

浅見 直輝:確かに。家の中にバリアがいっぱいあるという話ですね…

葦原 海:実家では、室内用のコンパクトな手動の車椅子に乗っているんですけど、それでもトイレに行くには90度曲がらないといけない。

葦原 海:あとは、自分の予算で住める物件となると、ユニットバスが多いと思うのですが、私にはそれが一番難関かも。たぶんトイレ側がビショビショになって大変なことになりそう(笑)

賃貸物件にもバリアフリールームのガイドラインを

葦原 海:あと、玄関とか扉を開けて入るときの、ちょっとした段差も困りますね。段差だけなら、上げれるは上がれるんですが、ドアを開きながらは上がれない。

浅見 直輝:言われてみれば確かにそうですね!
いやぁ、すごいなぁ~、本当に家の中は根深い・・・
この声をもとに、変えられることってないでしょうか?

木村 よしお:ハンディキャップを持った人向けの、賃貸住宅がどんどん出てきたらいいよね。

浅見 直輝:それいいですね。僕らが使っても便利だったら、別に問題ないし。

木村 よしお:お年寄りも車椅子を使う人もいるだろうしね。

葦原 海:お年寄りもそうですけど、小さいお子さんがいる人にもいいと思います。
ベビーカーを畳んでドアを開けるのは大変だし、それこそ大きいベビーカー、双子用とか!

木村 よしお:そういうの専門で、誰か起業してくれたらいいのに(笑)

浅見 直輝:それ、いけるかもしれない!! 誰かやってくれないですかね?

葦原 海:ホテルにバリアフリールームがあるのと、同じようになったらいいですね。

浅見 直輝:ホテルだとそういうのがあるんですか?

葦原 海:どのホテルにもあるわけではないですが、大手のビジネスホテル系にはだいたいあります。

木村 よしお:たとえば、アパートやマンションを10棟作ったら、そのうちの1~2棟はそういう部屋を用意するとか。
法律で義務化するのは大変だけど、そういうガイドラインみたいなものを、推奨していくのはいいかもしれないね。

浅見 直輝:段差のない家とかホテルって、ある意味、高級な感じしますよね(笑)

葦原 海:障がい者だけでなく、高齢者や赤ちゃんがいる人とか、そういう人たちにも需要がありそうな気がします。

2人の紹介

話し手:葦原 海 (あしはら みゅう)
2014年、16歳の時の事故により車椅子ユーザーとなる。2016年秋、NHK番組内で行われたファッションショーをきっかけに、モデル・タレント活動が始まった。現在では、多数のファッションショーに出演の他、TV / ラジオ / グラビア / トークショー / 講演会 / MC など幅広く活躍中。2020年東京オリンピック・パラリンピック公式イメージ動画にも出演。歩けていた頃と、受傷後では視野が変わり、今ある障害者と健常者の壁、不必要な固定概念を、エンタメの力で壊そうと今に至る。

話し手:木村よしお(参議院議員)
参議院議員。元厚生労働副大臣。年金、医療など社会保障のエキスパートとして、よりよく暮らせる社会のために活動を続けている。参議院厚生労働委員会委員、参議院行政監視委員会理事、参議院政府開発援助等に関する(ODA)特別委員会理事。

ナビゲーター:浅見 直輝(最前線で活動し社会を変えていく青年)